集英社
1600円

奥田英朗
東京物語 2001.12.1記

携帯のない時代の青春

久雄が行きたいのは東京の大学だった。
学部など問題ではなく、東京なら坊さんの大学でもよかった。
とにかくこの退屈な町を出たかった。
エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りしてしまうこの町を。

この本の表紙帯にはこう書いてある。けっして面白い本ではない。しかし、どこか惹かれるものがある。それはたぶんノスタルジーということだと思う。作者の奥田さんは1959年生まれ。50年代生まれという括りでいえば同年代と言えなくもない。しかも私と同じロック好きの少年、青年期だったらしい。

話は6編のエピソードでまとめられている。それぞれが時間軸によって分かれその時代に起こった出来事をモチーフにしながら時代を再現している。そして主人公の田村久雄の心の成長も東京の移り変わりと同時に変化していく。
田村久雄は弱小広告代理店に勤務している。1980年12月9日の話から物語は始まる。雑用に追われる1980年の師走の1日の出来事を読むことによって村田久雄の性格や背景などを知ることができるエピローグ的なスタートだ。この日ニューヨークでジョン・レノンが射殺されるという衝撃的な出来事が起きたことをこの章を読むことによって思い出すことができる。
物語の中では田村久雄がこのニュースを東京のどこかで知るわけだが、私自身もこのニュースを同じ東京で聞いたことをすぐに思い出すことができた。東京のどこで、どんな服を着ていたかも明確に思い出すことができたので驚いた。
田村久雄(作者の奥田さん?)の琴線に触れる出来事がいちいち自分自身と一致するから面白く読めたのかもしれない。見るものの感覚、仕事上での驕り思い上がり、対人関係、恐ろしいほど一致する部分が多かった。

最初のエピソードから次は1978年4月4日に少し戻ることになる。この日、田村久雄は名古屋から上京したのだった。この日のエピソードは後楽園球場で行われたキャンディーズの解散コンサートだ。この出来事を主軸に母に付き添われて上京した主人公の東京1日目が描かれている。
この章で初めて主人公が最初は勉学のために上京したことを知ることになる。しかも予備校通いを目的にした浪人生として。

物語は一浪後、大学に入学した一年生としてのエピソード。仕事が認められてきて東京生活も慣れてきた頃。結婚ということを意識せざるえない年齢になってきた頃。そしてまさにバブルが弾ける寸前のある1日。と展開していく。

自分自身を投影することができたからアッという間に読破することができた。あくまでも自分の年齢的な背景がフィットしたから面白かっただけなのかもしれない。
だからこれは正直、声を大にして人に薦められる本ではないのかもしれない。
時間が余っている人。50年代後半から60年代前半生まれの人は読んでみて面白いと思うかもしれない。できれば音楽好きの人ならなお良しというところか。
けっして傑作ではないけれど私にとっては楽しめた一冊であった。

■ あの日、聴いた歌 1980/12/9

■ 春本番 1978/4/4

■ レモン 1979/6/2

■ 名古屋オリンピック 1981/9/30

■ 彼女のハイヒール 1985/1/15

■ バチュラー・パーティー 1989/11/10


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