破線のマリス ネタばれ度:★★☆ 2000.04.01記

野沢尚さんの同名小説(第43回江戸川乱歩賞受賞)を読んだ時、これはテレビ化されないな、と思いました。テレビ業界で問題になっている「ヤラセ」ということが報道の現場でも行なわれているとしたら、視聴者は何を信じて情報を得ればよいのか分からなくなってしまいます。
テレビ番組に演出家がいる以上、ある意味では「ヤラセ」は容認しなくてはならないでしょう。誰も「演出」と「ヤラセ」の線引きはできないわけですから。

で、この映画はニュース報道制作を舞台にしたものです。ニュースキャスターがスタジオでニュース原稿を読んだ後に、それらを補足するために取材VTRを流しますね。その取材VTRを編集している女性編集員が黒木瞳演じる主人公です。主人公、遠藤瑶子は一編集員でありながらディレクターよりも信頼を得ているスーパーウーマンです。瑶子は自分の編集に手を入れられないように、編集の仕上げを直前まで遅らせることもしばしばあります。更には、視聴者に最大限の興味を与えるために素材テープを逆回転させて編集したりもします。ここらへんが「演出」と「ヤラセ」の線引きが難しいポイントかもしれません。

ある時、瑶子は郵政省の人物と名乗る人間から電話をもらい、汚職スクープのビデオの存在を打ち明けられます。その話に興味を持った瑶子はそのテープを元に大スクープを狙います。そして、そこに映されている男、麻生公彦(陣内孝則)の家庭をも壊してしまいます。
そして物語は、男の猛烈な抗議を受ける瑶子と男の対決、そして意外な結末へと進んでいきます。

映画の中で、男がテレビ局に乗り込んできて報道局長に編集前の素材テープの開示を求めます。局員の反対をよそに結局テープを見せるのですが、これなんかは明らかにTBSのオウム坂本弁護士事件を意識してのものと言えるでしょう。本来はニュース元を明らかにするようなことはありません。
その他にも実際のテレビ制作の方法とは明らかに違うところは幾つもあります。その代表的なところはオン・エアー素材を映画のようにプロデューサーなりディレクターが事前にチェックしないで放送することはまずありません。
ですから、この映画はあくまでもフィクションとして考えなくてはなりません。ただ、実際に映画のようなことになる可能性を秘めているのがテレビ界だということです。

この映画はテレビ局の内部告発というよりも、我々視聴者に対して、「テレビの映像を鵜呑みに信じてはダメ」ということを警鐘していると言えるでしょう。
とは言いつつも、内部告発と受けとれる部分もあるので、案の定、この原作はテレビ化されませんでした。本来であれば、野沢さんはドラマ脚本家として「恋人よ」「眠れる森」「氷の世界」などのヒット・ドラマを書いているのでテレビ化されてしかりなはずです。
それでもテレビ化されませんでした。テレビ局の逃げ腰が見えます。ということはこの映画がテレビでお茶の間に流れることもまずないのでしょう。
そういえば、テレビ・スポットって、やっていたんだろうか?
ちなみに「マリス」とは「malice」で悪意、敵意、犯意の意味。

監督:井坂聡。2000年作品、108分。


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