ペパーミント・キャンディー ネタばれ度:★★★ 2000.11.16記

映画としてはよくできいる映画だと思うし、演者たちもたいへん苦労したんだろうなと思ってしまう映画だ。ただ、個人的な好みとしては私のタイプではない映画だった。

主人公のキム ヨンホが20年ぶりに川辺で行われている同窓会のような集まりに参加するところから映画は始まる。20年ぶりに再開を楽しみ、それぞれの人生を確認しあってる他の参加者と違い、ヨンホは服装もヨロヨロのスーツだし、反抗的な態度で皆からも煙たがられているふうだ。他の皆は彼を無視して楽しんでいるが、ヨンホは鉄道の鉄橋に登り何か思いつめている。そしてそこへ汽車がトンネルを抜けて鉄橋へさしかかる。眼前に迫ってくる汽車。彼は汽車を受け止めるような格好で叫ぶ「帰りた〜い」。
映画はここからヨンホの人生のターニング・ポイントになったと思われるエピソードを時間と逆行しながらとらえていく。

インパクトのある冒頭シーンとは違い、過去へのエピソードはのどかな鉄道の線路沿いの景色を逆回転の映像で導いてくれる。注意しないと汽車の進行方向へ向かっての映像と思ってしまう。しかし、実際は過去への道しるべよろしく過ぎ去っていく景色の映像だった。桜?の花びらが木に戻っていくシーンが美しかったりする。

映画は全部で6つの過去のエピソードが紹介されている。
最初のエピソードは冒頭の川辺のシーンより3日前の話だ。ヨンホが自ら命を絶とうと拳銃を入手し、彼の今の精神状態を窺い知ることができるバラックのような家に戻ると彼の帰りを待っている男がいる。その男はヨンホを過去に愛していた女性スニムの夫だった。夫の話によると妻スニムは病床にあり、今にも死を迎えそうだとのこと。ヨンホに会いたがっているので、会ってほしいと言いに来たのだった。会いに行くにあたって夫はヨンホにスーツを買い与える。川辺の同窓会でヨンホが着ていたスーツはこの時に買い与えてもらったものだった。ここでの新しいスーツと3日後の川辺でのヨロヨロのスーツに彼の3日間の心の動きや苦しみを理解することができる。
ヨンホは病院のスニムを見舞うのにペパーミント・キャンディーをビンに入れて持っていく。久しぶりに再開した2人だがスニムの意識はほとんどない。見舞いの帰りに夫がスニムからヨンホにとカメラを手渡す。
ヨンホが自らの意思で死を意識していた頃、彼を愛していたスニムも彼女が望まないであったにしろ同じく死に直面していたわけである。
ヨンホの3日後の行動が決定的になったエピソードだ。
そして、画面は汽車がのどかな風景を逆行していくシーンになり、次のエピソードにと移っていく。

あのカメラは何?何でペパーミント・キャンディーを持っていったの?何で川辺で同窓会なの?これらの答えは過去のエピソードでじょじょに解き明かされていく。そして解き明かされながら次の気になることも出てくるのである。もちろん、それらは過去のエピソードで解き明かされるのだが。
未来に向かっていくのであれば、本当の未来と同じように「どうなっていくのだろう」と未知の部分を想像できるのだが、この映画は確定的な「今」からスタートして「過去」に向かっていくので、結果が確定している答えの「演算」をするような気持ちで見なくてはならない。それが見ている者の気持ちを苦しくさせる。

エピソードはヨンホの妻との出会い、スニムとの別れ、ヨンホの仕事などを含み、彼の徴兵時代へと進んでいく。おおよそ兵士に向かないヨンホは軍隊時代に「光州事件」に遭遇してしまう。そこでの悲しく残酷な体験が彼のトラウマとなって引きずっていく人生だったことが判明する。
そして最後のエピソードは、スニムへの愛と自身の夢を確認する20年前の話だ。

映画作りの手法として過去への進行という発想は少なくても私の中では斬新的なものだった。主人公ヨンホやスニム、ヨンホの妻の心の動きなども細かく描写されていて、とても繊細な映画だと思う。ただ、どうしても私には好きになれない映画だった。
過去のトラウマを引きずっていくヨンホに最終的には同情できないのだ。光州事件のことは一般知識と同じ程度しか知らないのだが、この事件に不幸にも自分の意志ではなく参加してしまった人はヨンホ以外にも大勢いるはずだ。ヨンホが繊細すぎる感情の持ち主であったことはもちろん分かるのだが、40才にして自分の人生に結論を出すことにはどうも納得できない。
ベトナム戦争体験で心が壊れてしまった人を描いた映画もいくつかあるが(ローリング・サンダーとか)、自分の人生の失敗の原因を無理に探し出し肯定させたいのではないか。としか思えないのだ。
ヨンホには会社もうまくいっていて、家庭も順調、外に女もいる。そういう絶頂期があったようだ。ある意味社会に順応していたわけだ。そんな絶頂期に人生の選択をしたのなら、彼の正当性はまだ理解できるのだが、家庭も崩壊、会社も崩壊。株で大損、共同経営の知人にも裏切られた。それらの原因を過去のできごとのトラウマとして肯定させてしまうような選択は私は好きではないし、認めたくないのである。

好きではない映画だったが、今まで韓国の映画は「雑」と決めつけていた私の中に新たな考え方を注入にしてくれた記念すべき映画であったことは確実である。
きめの細かい、繊細な映画を制作したのは、この映画が2本目のイ チャンドン。主演はこの映画で一気にブレイクしたソル ギョング
パンフレットの裏表紙にこう書いてあった。
A travel back in time to find a man's innocence.
見落としかもしれないが、ヨンホが持っていたジャラジャラついた鍵の束の意味が分からなかった。
1999年作品。129分。


映画TOPへ戻る