中途半端な秘めごと 2000.11.3記

ゴキブリを部屋で一匹発見した場合、実際には10匹のゴキブリが部屋の中に生息すると言われている。秘密の話というのはこれに似ているかもしれない。

「誰にも言わないでね」と人に秘密を打ち明けた場合、その秘密は数日後には10人以上の人が知っていると思ったほうが良い。10人がそれぞれ秘密の話を他の人に話していったら・・・それはもう秘密の話ではなくなっていることがほとんどだ。「秘密の話」を「噂話」にしたらその繁殖度は更に増すかもしれない。

逆に友人、知人、同僚から秘密話や噂話を打ち明けられた場合はどうだろう。誰かに話したくてしょうがない衝動に駆られるのではないだろうか。そんな時は、じっと我慢して自分から他人に話すことはしないようにしよう。なぜなら数日すると同じ話を他の誰かからまた聞きすることになるのだから。

ある日、同僚と3人でランチをしたとする。この3人全員ある秘密の話を知っている。例えば、会社を退職する予定というA子の秘密話だとしよう。3人ともA子から口止めされているからいきなりその話にはならず、世間一般の話などをしている。しかし、内心、自分だけが秘密話を知っているのか、他の2人も知っているのか知りたくてしかたがないし、何よりもA子の退職の話をしたくてウズウズしている。どうにも我慢できない一人がけん制球を投げたりする。「あ〜ぁ、今の会社辞めて他のことしたいよねぇ」なんて言ったりする。ドキッとする他の2人。ここで一気に「そう言えばぁ〜」となると話は簡単なのだが、律儀な2人はなかなか話にのってこない。「そうだよねぇ、でも難しいよねぇ」なんてキャッチ・ボールが続いたりする。こうなると3人とも疑心暗鬼である。
その日は結局3人の律儀な調和が保たれたまま終わるのだが、別の日にトイレに入っていると違うグループの女の子の話が聞こえたりする。「ねぇねぇ、知ってた?A子って会社辞めるんだって」。もう一人の子「うん、知ってた。なんか寿退社らしいよ」「なんだぁ、知ってるんだぁ」・・・
トイレの中で「オイオイそれはないだろう」なんて一人ボヤいてしまう彼女だったりする。

このての話はよくあることで、律儀に秘密を守っていた自分が馬鹿らしくもなるし、その情報を本人から打ち明けられずに他人経由でまた聞きしてしまうと何とも悲しいような腹立たしいような不思議な感情が起きてくるから厄介である。
このての例が退職ならまだしも、冠婚葬祭などが絡んでくるとますます厄介なことになる。特に結婚話などになってくると本人からは聞いていないのに何となく知っていたりするものだから「おめでとう」とも素直に言えないし、お祝いをすることもできずに悩んでしまうことにもなる。
秘密にするなら相当な覚悟で秘密にしたいものである。フェード・イン、フェード・アウトで優柔不断に秘めごとをすると周りをいたずらに踊らせることにもなってしまうので注意したいものでだ。とかく、世の中、野次馬ばかりなのだから。


秘密話で面白いエピソードがテレビ・ドラマにあったので紹介したい。

〜「前略・おふくろ様」倉本總シナリオより〜

サブという料亭の調理場で下働きしている青年が、そこの若女将から秘密にしていてくれと言われていることを先輩板前・秀次に打ち明けた。その話は若女将と先輩に関する噂話のことだった。
サブ:萩原健一、秀次:梅宮辰夫
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小橋(夜)

  ポチャンと水に小石が放られる。
  小橋の上にしゃがんでいる秀次とサブ。
  月光。
サブ「すみません、オレ----よけいなことを耳に入れちゃって」
秀次「------」
サブ「いっちゃいけないっていわれたンスケド----何だか奥さん、オレ----かわいそうで」
秀次「------」
  遠く流れ行くチャルメラの音。
  秀次、スッと立つ。
秀次「ちょっとつき合わないか」
サブ「ハ」
秀次「そこらで一杯ひっかけよう」
サブ「ハア」
  しのびこんでくる歌謡曲。

屋台

  どこかから歌謡曲が流れている。
  おでんをつつきつつ飲んでいる秀次とサブ。
秀次「(ポツリ)昔、米吉ってやつがいたよ」
サブ(見る)
秀次「浅草で、ちょっとしたいい顔でな。雷門をちょっと入ったとこに、
   そいつのレコが店ぇだしてた」
サブ「ハア」
秀次「ところが、そのレコに男ができてな」
サブ「------」
秀次「それ聞いて野郎、カッとして刺しちまった」
サブ「----(小さく)ウワア----」
  歌謡曲。
秀次「できた男を刺したンじゃないぜ」
サブ「------」
秀次「教えてくれた男を刺したンだ」
  サブ。
  秀次。
  ----サブのグラスに酒をつぐ。
  サブ----秀次のいった意味がわかり、ゾオッと緊張する。
  歌謡曲。
秀次「おやじ」
主人「へいッ」
秀次「がんもと----つくねだ」
主人「へいッ。そちらさんは」
秀次(サブを見る)
サブ「(小さくなって----蚊の鳴くような声で)コンニャク」
主人「へいッ」
  歌謡曲。
秀次「飲めよ」
サブ(小さくなってうなずく)
  間。
  秀次、ちょっと笑う。
秀次「悪かったな、こんな話して」
サブ「(首ふる。小さく)ヨクわかりマス。イワレテル意味」
主人「へい、お待ちッ」
  二人の前に皿が出る。
  秀次、フウフウと食いはじめる。
秀次「どこの世界にもいろんなやつがいるさ。いいたいやつにゃアいわしとけばいいのさ」
サブ「ハイ」
  間。
秀次「(おやじに)うまいな、このつくね」
主人「そうすか。秀さんにそういっていただきゃア」
  サブ。
  ----顔を伏せ、コンニャクを食う。


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